『僕を海へ連れてって!!』 −2− 

高速を降りて下道を走る頃、時計を見ると12時前だった。
日は高くその日はラジオでも伝えていたが、最高気温を叩き出していた。

…どうりで暑いはずだ…。
そんな事を呑気に考えながらも、黒王は渋滞に巻き込まれた。
下道をトロトロと走る。竜弥は多少苛々しながら煙草を取り出し、火を着けようとしていたが上手く着かずに更に苛々度を増していた。

「ねえ、竜弥運転変わろうか?」

僕は、少しでも竜弥に楽しく過ごして欲しかったから声を掛けた。
だけど、竜弥は僕の問いに多少難しい顔をして答えた。

「え?聖司が運転?いや、遠慮しておくよ…大丈夫、俺まだ全然疲れてないから…」

…なんだ、僕が運転するのをそんなに露骨に嫌な顔しなくてもいいのに。

そこまで渋滞は酷くは無く目的地には着いた。
道端で海の家の呼び込みが車が通る度に大きく旗を振る。

「海の家って、沢山あるんだねぇ…。あ、あの人凄い…」

「そうだな、競争が激しいなぁ…。ホントだ、頑張ってるな…」

そこには、僕たちに向けて大きく旗を振る中年のおじさんがいた。
何が凄いって、蛍光ピンクのTシャツに黒い肌。僕たちに向けて見せられる白く輝く歯。
しばらく見入ってしまう。

「ねぇ、竜弥、折角あのおじさん頑張ってるんだし、あそこにしない?」

「…そうしょうか…此処なら良さそうだしな」

とハンドルを右へと切り、ピンクのおじさんの誘導に従った。
砂利道を通り抜け指定された場所へと車を停めた。僕は嬉しくて仕方が無かった。
はやる気持ちを抑えきれず、車内で一服している竜弥に早くと急かした。
竜弥を待っている事が出来ずに、僕は一人で車を降りて後部座席に積んでおいた荷物を降ろした。浮き輪に、ビーチボール。これは海には欠かすことの出来ないアイテム。空気のまだ入っていないダランとした浮き輪を首からぶら下げて、運転席側へと回った。
ドアの外から、竜弥に早くとジェスチャーを送る。それに気が付いた竜弥は咥えていた煙草を灰皿へと押し付けて、ゆっくりと動き出した。

「竜弥ー遅いよ!」

「…ごめん。それにしても、聖司やけに張り切ってるなぁ?」

「だって竜弥が海に連れてってくれる事ってもう無いかも知れないんだもん。だから張り切るのは仕方がないよ〜」

「そうだな…。じゃ、行くか!」

都内で感じる暑さよりそれ程暑くは無かった。コンクリートの照り返しの暑さとは違って、風がサラサラと頬を撫でた。しかし額には確りと浮かぶ汗。
竜弥は眩しさに目を細めていた。

砂浜を歩くとビーチサンダルを履いているのに暑かった。人でごった返している砂浜だったけど、何とか場所を確保する事が出来た。周りを見ればカップルばかり。こんなに暑いのにやたらと密着している。そんな周りを全く気にせずに竜弥はビニールシートを広げていた。
Tシャツを脱ぐ姿に僕は見惚れてしまった。筋肉マッチョな体ではないが、無駄が何一つ無い。そんな均整の取れた体を前にして、僕は自分がシャツを脱ぐことに戸惑っていた。

「どうした?聖司脱がないのか?」

「…ううん、なんか恥ずかしい…」

「え?!じゃぁ、なんで海に来たんだ?」

「いや、凄く楽しみだったんだけど…僕色白いし…それに竜弥見たく格好良くないし…」

「…?何を言ってるんだ?そんな事いってるんなら、俺が脱がすぞ?」

仕方無く両腕の力を抜き、竜弥にされるがままにシャツを脱がされた。それにしても、なんて貧弱な体なんだろう…。普通に裸でいる事が僕にとってこの上なく恥ずかしい事だった。
だけどそんな事で一々落ち込んではいられなかった。夏を満喫しなければならない!それが僕がこの夏に立てた一つの目標だった。
気を取り直して、竜弥の横に座った。

「ねぇ、竜弥。咽渇かない?僕ビール買ってこようか?」

「お!いいねぇ。頼むよ!」

「じゃぁ、待っててね!」

僕はビーチサンダルを再び履き、人ごみを抜けて海の家へと向かって歩き出した。こうやって久しぶりに海に来て見ると、黒い女の人が増えているような気がする…。男の人も黒い…。ギャルにギャル男。僕には遠い存在の人だなぁ。なんて考えながら歩いていた。
海の家の元気な声のおばちゃんに「ビール二つ」と注文すると、カップいっぱいに注がれたビールを出された。それを受け取り、竜弥の元へと戻ろうとした。
遠目から観ても竜弥は格好良かった。だからすぐに何処に竜弥がいるのか一目でわかる。
ん?だけど誰かと話してる?
少し困った表情をして、竜弥は女の人たち二人と話していた。

「…え?どういうこと?て言うか誰なの?」

僕は思わず両手に握っていたカップを落としそうになった。歩いていた足が急に重くなって、砂浜に埋もれて行きそうになった。
目を凝らしてみると、僕たちのシートの上に女の子二人が図々しく座っていた。

遠くからの僕の視線に気が付いたのか竜弥が振り向き、目が合った。竜弥は僕に手招きして見せた。ノロノロと竜弥の下へと歩み寄る。僕の表情に竜弥が更に困った顔をした。

「…聖司…いや、これは…」

僕が戻ると竜弥はシドロモドロ答えた。

「…うん。解ってるよ。竜弥は悪くないから…」

僕は答えると、必要以上に竜弥にくっ付く女の子達を睨んだ。それでも去ろうとしない二人の女の子。僕はもう我慢の限界で、わざと竜弥の横に座った。僕の攻撃に彼女達はびくともしなかった。それどころか、竜弥は元より、僕までがターゲットとなってしまった。


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